ブレンドジュース

高松と青木は、1時間前からずっと、その話を続けている。

「絶対この色からして、納豆だよ!」

青木は、額に汗を浮かべて、静まりかえった喫茶店に、その声を響かせていた。

「いや違うよ。色に惑わされたらダメだ。これは、キューピードレッシングと
 モロヘイヤからできているに違いない。もう一口飲んでみなよ」

青木は、汗をぬぐいながら再びグラスを手にした。

「うーん、わからない」

 彼等は、ウェイトレスとマスターが、仕事をしているふりをして
ずっと彼等の議論に、耳を傾けているのに気がついていた。
マスターは、スプーンを拭いているウェイトレスに目で合図をした。

すべてを了解したように、ウェイトレスは、スプーンを置いて
彼等の方へ近づいてきた。
高松と青木は、彼女が近づいてくるのを気にしながら、考え続けているふりをした。

「それは、沖縄の黒豚の血と、青木ヶ原樹海の地下水をブレンドしたものです。」

「……………」

高松と青木は、しばらく見つめあった後、突然ゲラゲラと笑い出した。
マスターは、遠目でニヤリとしてウエイトレスに目をやった。
ウエイトレスも、軽く握った右手を口にあてて、クスクスと笑い出した。