お金
その屋台には、1円玉から、1万円札までのお金が
赤い台の上に綺麗に並べられていた。
1円玉の前には、定価1万円の札が、付けられていた。
1万円札の前には、定価1円という札が付いていた。
ビルの谷間にあるその屋台は、街の易者からタダで譲り受けた20年は、使い続けられていた屋台だった。
しかし、せわしく歩く通行人の中で、その屋台に興味を
示す人は、3日間、一人としていなかった。
白髪の70前後の老人が、その屋台の前に立ち止まったの
は、4日目の昼下がりのことだった。
「暑いのに大変ですねえ。それじゃあ、この1円玉をひとつ下さいな。」
そういうと、老人は、使い古したボロボロの財布から、真新しい1万円札をサッととり出した。
1円玉を小さな紙袋に入れながら、その若い店主は、小さな声で、しかし鋭いまなざしで、老人に、こうささやいた。
「ありがとうございます。……………………これで、あなたにかけられていた魔法は、やっと解かれました。」