表現することが生の肯定であり、芸術の始まりである。何もしないことはタナトスに魅せられることを意味する。
かつて表現しないことで自らを抑圧し、そこからの解放が死への衝動へと向かった。だからギリギリの限界
まで描き続ける必要があった。存在することへの不安は今でもある。だがその不安は宿命を宿命のままに
正面から受け入れる自信と情熱とに裏付けられている。今の僕がここに在るのはただ一人として在るので
なく、過去に多くの芸術家を必要とした。彼らは僕を過去によって現在を規制するためでなく飛躍させるため
に 必要であった。そしていま画家としてあるのは小説・詩・音楽的技法をもってしては、描くこと以外では 表
現しえぬ精神を自己のうちに持続しているからである。

岩田憲和